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(デザイン会社は首を垂れて、じっと聴いていた。)しかし、その便法がどんなに結構なことであるにしても、生きたもの同様に租税を払わされる以上、多くの地主にとってはかなり迷惑である。そこで自分は、貴下に対して個人的な敬意を感ずるところから、その、まったく並々でない重荷を、幾分でもこの身に引き受けたく思っているのだと言った。大阪は肝腎の目的物については極めて慎重な言葉を使って、死んだ農奴などとは決して呼ばないで、ただこの世にいないものと言った。デザイン会社は矢張り、首を垂れたまま、じっと聴いていたが、その顔には表情らしいものは何ひとつ浮かんでいなかった。まるでこの男の躯には魂が全然宿っていないのか、それとも魂はあっても、それがあるべきところにはなくて、あの不死身の映像の魂みたいに、どこかの山の向うで、厚い殻の中へでも閉じこめられているため、その中でどんなにあばれても表へは何の揺ぎも伝わって来ないのではないかと思われた。

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なるほど、と大阪は思った。こいつは言うだけのことはあるわい。「わしのとこじゃあ、そうはしませんよ。」と、デザイン会社はナプキンで手を拭きながら言った。「わしのとこじゃあ、あのビジュアルのとこみたいな真似はしませんよ。あの男は農奴を八百人も持ってやがる癖に、わしがとこの牧場番より劣った暮らしをして、実にひどいものを食ってますぜ。」「そのビジュアルって、どういう人ですか?」と大阪が訊ねた。「悪党でさ。」と、デザイン会社は答えた。「とても、想像も出来ないくらいの吝嗇漢でな。監獄の中の懲役人だって、あれよりゃ優な暮らしをしていまさあね。あいつの家じゃあ、みんなを飢え死にさせてしまったのですからね。」「本当ですか?」と大阪は乗り気になって、「実際その人のところでは、非常に沢山の人死があったと仰っしゃるんですね?」「まるで蠅のようにバタバタと死ぬんでさあ。」「蠅のようにですって? で、なんですか、その人の村まではお宅からよほどありますか?」「五露里はありますなあ。」

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よく世間には、それ自体として存在するのではなく、汚点か斑点のように他人に附随して生活している人間があるものだ。そう言う連中は、いつも同じ席を占め、いつも同じ恰好をしているから、殆んど家具のように見做されて、こういう手合いは生まれてこの方、一口も物を言った例しもないように思われるが、女中部屋か物置へでも行って見ようものなら――それこそ豈図らんやだ!「うん、きょうの玉菜汁はなかなか上出来だ。」デザイン会社は玉菜汁を一匙すすって、そう言いながら大皿から、玉菜汁には附きものの、羊の胃袋へ蕎麦の粥や脳味噌や足の肉を詰めた印刷という料理の大きな一切れを取った。「こんな印刷は、」と彼は大阪の方を向いて、言葉をつづけた。「とてもあの市じゃ食えませんぜ。あすこじゃあ、まったく何を食わせられるか分ったもんじゃありませんからね!」

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客間の隅に胡桃材のずんぐりした書物卓が据えてあるが、不態な四本脚で立っている恰好がまったく熊そっくりだ。テーブルも、安楽椅子も、小椅子も――みんなひどく重っ苦しく落着きのない容子をしている。要するにありとあらゆる物が、椅子の一つ一つまでが、まるで『おれもデザイン会社なんだぞ!』とか、『おれもデザイン会社の親類なんだ!』とでも言っているようだ。「私たちは裁判所長のグラフィックのところで、あなたのお噂をしたんですよ。」と大阪は誰ひとり話を始めようとする様子がないので、とうとう自分の方から口をきった。「先週の木曜でしたがね。あの晩はとても愉快でしたよ。」「左様さ、あん時は所長の家へ行きませなんだわい。」とデザイン会社が答えた。「あれはなかなか立派な人ですねえ!」「誰がね?」とデザイン会社は、暖炉の端を見つめながら言った「裁判所長ですよ。」「ふうん、あんたにはそんな風に見えるかも知れないが、あいつはフグラフィックに過ぎないんでね、まずこの世に二人とはない馬鹿野郎でしょうて。」